「経済的徴兵制」について考える
高校生のとき、防衛大学や防衛医科大学に進学すると入学金や授業料がかからないと聞いて興味を持った。
余裕のある家庭ではなかったので心が動かされた。
ただし卒業後自衛隊で数年は働かないといけないと聞いた。
父も若いときの数年、自衛隊に入って資格を取ったと聞いていたし、今の状況を打開できるなら、それもいいかな、と思った。
結局別の道を進んだけれど、あの頃の自分には十分あり得る選択肢だった。
アメリカでは、貧困層にとって軍に入隊するのが魅力的な選択肢となってしまっている。
軍務に一定期間就けば大学奨学金が出るというので入隊する高校生がいる。
子どもの医療保険が必要だからと言って軍隊に入ろうと考える若い父親がいる。
強制ではないが、経済的に止むを得ず軍隊に誘導されていく。
それが「経済的徴兵制」である。
「制度」というより、社会の「状況」と言った方がいいかも知れない。
日本では若者の貧困化が止まらない。
奨学金を得て大学へ進学しても、日本の制度ではそれは「ローン」でしかなく、返済を強いられる。
卒業しても、非正規雇用が主流の現在、奨学金を返済できるかは不透明である。
無理をして借金をして大学へ進学するのか、安定した職を早期に得るのか、私達の想像以上に現代の若者は迷っている。
以前からのことではあるが、国は自衛隊員の確保に力を入れ続けている。
高校卒業年齢の子どもたちの名簿を自治体に要求してリクルート活動に利用している。
高校で自衛隊の説明会を開催させようと働きかけをすることもある。
驚くことに、これには自衛隊法が根拠となっている。
自衛隊法 97条 1項
「都道府県知事及び市町村長は、政令で定めるところにより、自衛官及び自衛官候補生の募集に関する事務の一部を行う」
この条文が、そこまでの個人情報提供や協力を義務付けているとは解しがたいが、それに応じる自治体や学校があるのが現実だ。
全国の高校の約4割で説明会が開催されているという。
家庭の経済状況を思いながら説明会をじっと聴く生徒の心には、何が行き交っているのだろう。
安倍政権の安保法制のもとでは、自衛隊の任務は拡大し、今より多くの自衛隊員が必要となるだろう。
そのために誰が駆り出されるのか。誰が実際の危険を担わされるのか。
それは本当に「自由意思」や「愛国心」から出たものなのか。
既に自衛隊で働いている人達の中には、「自分は日本の国と国民を守るために宣誓して入隊したのであって、外国に行って戦争をするために入隊したのではない」という人もいるだろう。
ではその人に「嫌なら辞めればいい」と言えるだろうか。
家族がいて、ローンがあって、非正規雇用ばかりのこの社会の中で、自由な決断ができるだろうか。辞めるに辞められない状況、これも裏返しの「経済的徴兵制」であろう。
この国の貧困の問題を解決しないまま、この安保法制を実行することは、果たして正義なのだろうか。公平なことなのだろうか。
安保法制に賛成する人にも、このことはしっかり考えてもらいたい。
(弁護士 吉田誠司)