【京都の弁護士グループ】安保法制に異議あり!怒れる女子たちの法律意見書(※男子も可)

怒れる京都の女性弁護士たち(男性弁護士も可)が安保法制の問題点について意見するブログです。

ウェブ学習会「民間企業・民間人組み入れ編」第2回 民間人も「戦地」へ行く? ~業務従事命令、指定公共機関、契約企業から派遣、予備自衛官~

第1回はこちらからご覧いただけます。

 

  昨年9月に成立し、今年3月に施行された安保法制で、日本は集団的自衛権を行使できることになってしまいました。これは、自衛隊員だけではなく、民間の労働者も、「戦地」などへ派遣され、危険な業務に従事する可能性が高まったことも意味します。

民間企業の従業員や民間人が、「戦地」などへ派遣される場合として、次の場合が考えられます。

   ① 業務従事命令

   ② 指定公共機関     

   ③ 勤務している民間企業が国と契約して、民間企業の従業員が派遣される場合

   ④ 予備自衛官制度 

 業務従事命令

 日本に対する武力攻撃が発生した事態、発生していなくてもその予測の段階で自衛隊が出動したとき、自衛隊展開予定地以外の防衛大臣が告示して決めた地域であれば、防衛大臣の要請を受けた都道府県知事が、一定の職種の人に、自衛隊の任務遂行に必要な業務に従事することを命令できます。

 現在、業務従事命令の対象となる医療、土木建築工事又は輸送に従事する者と規定されているのは、

  ・医師、歯科医師、薬剤師、看護師、准看護師、臨床検査技師、診療放射線技師

  ・建設業者

  ・JRを除く鉄道事業者、自動車運送事業者、船舶運航事業者、港湾運送事業者、      

   日本の航空運送事業者

   です。

※JRについては自衛隊法第101条の規定により自衛隊の任務遂行上特に必要な場合は長官からの協力の求めに応じることとなっています。

 

 業務従事命令の対象となる医療、土木建築工事又は輸送に従事する者の範囲は政令で決めると定められているので、国会の審議を経ずに内閣の判断で範囲を広げることができます。

 業務従事命令は、「公用令書」によって命令されます。公用令書には、従事すべき業務、業務の場所、期間が書いてあって、それに従って、仕事をすることになります。

 これを、「白紙(しろがみ)みたい」と言った人がいます。太平洋戦争中、徴兵は赤紙で、徴用は白紙で、通知されたからです。

 

指定公共機関

 武力攻撃事態の予測時点から、政府は、内閣総理大臣を本部長にした対策本部を設置して、さまざまな措置を実施します。中央官庁のほか民間企業も、指定公共機関に指定されると、措置に協力する法律上の義務を負うことになります。

 指定公共機関は、政令で定められているほか、内閣総理大臣が指定することができます。現時点で既に指定されており、内閣総理大臣により公示されています。指定公共機関の範囲はとても広く、みなさんになじみの深い、日本赤十字社や、鉄道、バス会社、フェリー会社や、運送会社が指定されています。

 また、指定公共機関のほかに、都道府県知事が指定する指定地方公共機関もあります。例えば、京都府知事が指定した指定地方公共機関は以下のとおり指定されています。

指定地方公共機関の指定について/京都府ホームページ

 これらの企業に勤務している人は、対処基本方針が定められたときは、その業務に係る国民の保護のための措置を実施することになります。

 

業務従事命令の範囲

 業務従事命令や、指定公共機関の責務が発生するのは、法律の条文上は、武力攻撃事態とその予測時点であり、存立危機事態、つまり、我が国と密接な関係にある他国(つまり日本以外の国)に対して武力攻撃が発生したことを理由に自衛隊が出動するとき(集団的自衛権の行使)には、業務従事命令等はできません。でも、政府の見解は、「存立危機事態に該当するような状況は、同時に武力攻撃事態等にも該当することが多い」というものなので、例えば、米国が攻撃されて自衛隊が米軍と一緒に他国を攻撃する場合にも、それすなわち武力攻撃事態等だとして、業務従事命令が出る可能性、指定公共機関の責務が生じる可能性があるのです。   

 

民間企業と国との任意契約に基づく民間企業従業員の海外派遣

 アフガン戦争(2001年-)で、自衛隊は、インド洋・アラビア海・ペルシャ湾などで、多国籍軍への給油活動を行いましたが、その際、自衛隊艦艇の修理に、民間企業の技術者が派遣されていました。

  2002年7月 護衛艦あさかぜの対空レーダーの回転駆動モーターの修理に4名

     同年同月 補給艦はまなの楫のモーターの修理に2名

     同年8月 補給艦はまなで同様の修理に3名

     同年同月 護衛艦いなづまのデッキクレーンの油漏れの故障の修理に3名

(岩波ブックレット 吉田敏浩著「民間 人も「戦地」へ テロ対策特別措置法の現実」8頁~より)。

   このように、法律による義務や強制ではなくとも、防衛省、自衛隊、国と民間企業との民法上の契約によって、民間企業が、海外で活動する自衛隊のための業務を行い、企業の従業員が海外へ派遣されることがあります(日本国内で、民間企業が国から戦争関連の業務を請け負い、企業の従業員が従事することも当然あります)。

 今回の安保法制では、同盟国が攻撃されたら、自衛隊が防衛出動すること(つまり集団的自衛権)が認められ、自衛隊員の「殺し殺される」危険が増すことになりましたが、それは、自衛隊のための業務に従事する民間人労働者にも当てはまるのです。

 民間企業の従業員は、会社の派遣指示を断れるのか、会社の労働組合は守ってくれるのか、業務でケガをしたり死亡したりしたときの補償はどうなるのか、いろんな疑問が沸いてきます。

 

予備自衛官制度

 予備自衛官制度とは、普段は自分の仕事に従事しながら、自衛官としての教育・訓練に応じ、防衛招集等されたら、自衛官として出動する制度です。

 このうち、「予備自衛官補」は、自衛官未経験の一般国民が対象です。教育・訓練の応招義務はあるが、出動する義務はありません。しかし、教育訓練を終了すれば、「予備自衛官」として任用され、その場合、防衛招集に応じる義務があり、第一線部隊の出動時に、「後方地域」で任務につきます。

 予備自衛官補の募集要項を見ると、「予備自衛官」には、一般コースと技能コースがあり、技能コースの対象資格は、医療、語学、情報処理、通信、電機、土木建築、整備、放射線管理、法務と広く、自衛隊が、民間の専門技術・技能を確保しようとしていることがわかります。

http://www.mod.go.jp/gsdf/jieikanbosyu/pdf/y/28yobijihoginouy.pdf

 上記の資格の中に、操舵資格は入っていません。安保法制成立後、防衛省は、有事の際に使うべく民間フェリー2隻を選定するとともに、民間船員21人を海上自衛隊の予備自衛官とすること、そのための費用を2016年度政府予算に盛り込む方針を明らかにしました。これに対し、日本海員組合は、「事実上の徴用だ」とし、今年1月15日、防衛省に反対を申し入れた。しかし、防衛省は、民間の船員も10日間の訓練で海自の予備自衛官になれる制度を16年度から始めることにし、訓練費を16年度予算案に盛り込まれ、2016年3月29日、当該予算は成立しました。 

www.asahi.com

 

(弁護士 山下信子)

 

このような制度はどのように現実となるのでしょうか?続きは近未来ミニ小説で!

gekidojo-kyoto.hatenablog.com