【京都の弁護士グループ】安保法制に異議あり!怒れる女子たちの法律意見書(※男子も可)

怒れる京都の女性弁護士たち(男性弁護士も可)が安保法制の問題点について意見するブログです。

ウェブ学習会「今さら聞けない集団的自衛権」第1回~なにができるようになったか

 今日、3月29日は、昨年9月19日に成立した安保法制の施行日です。
 そこで、新しい安保法制がどういうものか改めてお伝えしたいと思います。

 

  いつものリアル学習会のノリで、始める前に大事な注意点をお伝えします。
 それは、「言葉に誤魔化されないで!」ということです。

 安保関連の法律の名称もやたらと長くて分かりにくいですし、条文の文言にも聞き慣れない難解な用語が連なっています。
 たとえば、「明白な危険が切迫」とか、「存立が脅かされ」とか、「根底から覆され」とか、「そのまま放置すれば」とか、「直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等」等々。。。

 「頭がクラクラして見ただけでもうダメ~、理解するのはあきらめる(>_<)」という人もいるかもしれません。
 でも、学者の先生だって、次のようにおっしゃっているんです。

「昨年の閣議決定(女子会注:2014年7月1日の閣議決定-今回の法案のもとになったものです-)が出ましたときに、その文章をやはり学生諸君とかが見て読んでいくと、これは一読してわからないどころじゃなくて、読めば読むほど、どうなるんだろうという、そこがございました。それを今回、落とし込んでいく作業をされているわけでございまして、そうすると、概念がやはり本当にわからない。」
(2015.6.4衆議院憲法審査会で参考人の笹田早稲田大学教授の発言より)

第189回国会 憲法審査会 第3号(平成27年6月4日(木曜日)) 

  内容が分からないのは読み手のせいではないのです。それに、分かりにくければ、議論が混乱しやすく、説明も誤魔化しやすくなりますよね。

 なので、まずは、言葉に圧倒されたり、言葉遣いに誤魔化されたりしないよう注意していただきたいのです。
 これから、できるかぎり丁寧に解きほぐして説明していきますので安心してください。そして、ときには正しく言い換えながら、理解してゆきましょう。

 

 では、さっそく中身についての説明を始めましょう。


 今回の安保法制の変更点で、一番大きな変更は、日本に対して武力攻撃をされていないのに、自衛隊が出動して武力を行使することができるようになったことです。
 武力を行使するというのは、ミサイルなどの武器を使用して自衛隊が組織的に戦闘行為をするということです。

 

 これまでは、自衛隊は、次の場合にのみ内閣総理大臣の命令で防衛出動できるとされていました(自衛隊法76条1項本文)。

 ①我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態
 ②我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態

改正前の自衛隊法

(防衛出動)
第七十六条 内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃(以下「武力攻撃」という。)が発生した事態又は武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。
 この場合においては、武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律第九条の定めるところにより、国会の承認を得なければならない。

 日本が、他国など外部から武力によって、①攻撃されたか、②攻撃される寸前の事態です。①を「武力攻撃事態」、②を「武力攻撃予測事態」といい、2つをあわせて「武力攻撃事態等」とよび、この場合に内閣総理大臣は自衛隊に出動を命じられるのです。

 そして、この防衛出動の際に、自衛隊は「武力の行使」ができることになっています(自衛隊法88条1項)。

(防衛出動時の武力行使)
第八十八条  第七十六条第一項の規定により出動を命ぜられた自衛隊は、わが国を防衛するため、必要な武力を行使することができる。 

  外部から武力攻撃を受ける場面では自分たちを守らなければならないという考えのもと、自衛隊に自国防衛のための武力行使を認めている条文です。

  ちなみに、内閣総理大臣の防衛出動命令には、「国会の承認」を要することになっていますが、緊急時には事後の承認でもよいことになっています(武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律9条)。

 以上が、いわゆる「個別的自衛権」です。

  

 ところが、今回の改正で、次の事態でも、自衛隊が出動して,「武力の行使」ができることになりました。自衛隊法76条に次の事態が追加されたのです。

 ③我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆られる明白な危険のある事態

(改正後の自衛隊法76条1項2号)

 「我が国に対する」武力攻撃ではなくて、「他国に対する」武力攻撃と書いてありますね。つまり、日本に攻撃がない場合にも、他国に対する武力攻撃の発生を理由に、日本の自衛隊が武力行使できることになりました。

 これがいわゆる「集団的自衛権の容認」です。

 憲法9条に違反するという大問題もありますが、これまで「我が国に対する」という限定があったのに、これが無くなったということは、海外で生じた武力紛争でも自衛隊が出動して武力行使できるようになることを意味します。 
  アメリカへの攻撃でも、直接攻められていない日本が応じることがありえますし、朝鮮半島で戦争が起きれば自衛隊が出動することもありうる規定ぶりです。

 

 ③は「存立危機事態」と呼ばれていますが、どのような場合に「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆られる明白な危険」があると考えるのかというのは、はっきりしません。

 もともと安倍首相が掲げたのは、日本人の母子が乗る米国の軍艦のイラストでした。「日本人の命を守るため、米国の船を守る」とし、それには集団的自衛権が必要だと説明していました。
 また、中東ホルムズ海峡での機雷掃海なども例に挙がっていました。
 国会では厳しい質問がなされましたが、政府の答弁は不十分なもので、結局どうしてそれらの例が「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆られる明白な危険」といえるのかはっきりしませんでした。

 要するに、時々の政権が状況に応じて決めるということです。
 条文上は、上記文言に該当すると内閣総理大臣が判断すれば防衛出動を命じられます。国会の承認が必要ですが、現状では明白に憲法違反だと言われる法案を通した国会です。しかも、上述のとおり、緊急時には国会承認は事後でよいことになっています(この点について参議院で附帯決議がありましたが、法的拘束力はありません。)。

 

 政府は新しい安保法制を「平和安全法制」と呼び、「戦争するための法律ではありません」と説明していましたが、今回の改正で、日本が、自国が攻撃されていないのに、海外で起きた他国間の武力紛争に参加できるようになったことは紛れも無い事実です。

 まず、新しい安保法制の大きな問題点がここにあります。

 

 今日はここまでにしましょう。次は憲法との関係を解説したいと思います。
 See you !

(弁護士 山下信子、弁護士 古家野晶子)

 

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