【京都の弁護士グループ】安保法制に異議あり!怒れる女子たちの法律意見書(※男子も可)

怒れる京都の女性弁護士たち(男性弁護士も可)が安保法制の問題点について意見するブログです。

近未来ミニ小説「あしたの世界」第4話 戦地への出張

 「えっ、うそでしょ?何で会社員のあなたが『戦地』へ行くの!」

妻が言う。そりゃそうだ、僕だって最初は耳を疑った。でも本当の話。

「戦地っていうか、『海外出張』なんだって・・・」

苦し紛れに僕は言う。

  僕は、中山 彰、36歳。工学部を卒業して、中堅の機械部品メーカーに就職し、技術者として働いてきた。大学時代から途切れては復活する感じで交際していた彼女と、2013年に結婚し、翌年には息子が生まれた。

 2015年の9月に成立した安保法制には、僕も人並みの関心はあって、自衛隊が今まで以上に海外で米軍と一緒に活動することになる法律が通ったと理解していたけど、自分には関係がないと思っていた。

 徴兵制になると言われたら、僕だって、息子のために断固反対するけど、そうではないのだし、人並みの収入がある僕の息子が、経済的な理由で自衛隊に入ることはあり得ないことだから。

 

 ところが、2018年夏、僕は部長から「海外出張」を命じられた。出張先は、ペルシャ湾方面という。(『方面』って何だよ・・そんないい加減な出張あるのか?)と僕は思った。

 ウチの会社は、最近、自衛艦を建造している大手造船会社のH重工に特殊な機械部品を納める新規事業を獲得した。自衛隊は、H重工に自衛艦の油圧シリンダーの修理のために技術者の派遣を要請し、その結果、H重工から、特殊部品を納品しているウチの会社の技術者も一緒に来るよう、要請があったのだ。

   安保法制が成立してから、自衛隊の海外派遣がいっそう増え、自衛艦の建造も増加したが、自衛艦の補修も増えて自衛隊の中の技術者だけでは間に合わず、自衛隊では、造船会社に修繕体勢を整備することや技術者の派遣準備を普段から行うよう要請しているのだという。そして、会社としては、得意先からの技術者派遣要請を断れば、発注先リストから外されて次の受注はないのだから、従うほかないと言うのだ。大手メーカーの協力会社としては、これ自体は「よくあるハナシ」なんだけど。

 

 そうして、技術者の中から、僕が運悪く指名された。

 部長は、僕に、危険な場所には行かない、修理作業は港内でやるから大丈夫だ、というが、そう言いながら、僕の顔を苦しげに見ている。

 自衛隊は、海洋上で、アメリカやイギリスの艦船に補給活動をしているのだから、海洋上で自衛艦の修理の必要が出たら、ヘリや飛行機で自衛艦まで運ばれ、海洋上で作業をすることも、あり得るだろう。近年、日本は「戦争しない中立国だ」というイメージはほぼ無くなっているから、米軍艦に補給活動をしている自衛艦が狙われる可能性はおおいにあるだろう。

 

 入社のときに、こんなこと、想像もしてなかった。ウチの会社のようなニッチな技術が軍需に使われることもあるなんて、思いもよらなかった。ウチのような中小メーカーに起きたなら、よそのメーカーでも十分起こる出来事だろう。僕のほかにも日本中の技術者が同じ目に遭っているのか・・・。

 はっきり言って、僕は、行きたくない。行けば、命の危険がある。でも、会社の業務指示を断ったら解雇されるか、窓際に追いやられる可能性がある。僕は家族を守らないといけない。誰かに相談したいけど、部長から、箝口令を言い渡されたから、同僚にも相談できない。労働組合に相談したら助けてくれるだろうか。

 妻は、命には替えられない、会社を辞めることになってもいいから、絶対に派遣に応じるなと半狂乱になって言うが、退職して次の就職先が見つかるのだろうか。

 僕はどうすればいいんだろう。                            弁護士山下信子