【京都の弁護士グループ】安保法制に異議あり!怒れる女子たちの法律意見書(※男子も可)

怒れる京都の女性弁護士たち(男性弁護士も可)が安保法制の問題点について意見するブログです。

安保法制 はじめの一歩~憲法クイズに挑戦!~リアル・ウェブ学習会 実況版(その1)

 番外編として、「リアル・ウェブ学習会」をご提供します。

 今年3月に行われた、山下信子弁護士による「はじめの一歩学習会『安保法制』」@生活クラブ京都エル・コープの「実況」版です。
 根気のいる文字起こし作業をしてくださったエル・コープの方に感謝します!

   リアル学習会の様子をお伝えできれば嬉しいです。
(なお、そのままではわかりにくい部分等加筆修正しています)

 

ごあいさつ

 きょうは呼んでいただいて、ありがとうございます。私は、京都市役所の裏で、弁護士2人の小さな法律事務所を経営しています。

 今まで講演活動は割とたくさんやってきました。京都市の福祉職員の研修の講師を20年ずっとしていたり、府立医大で医療側のための講演をしたり、企業法務関係の講師もやってきましたが、憲法については、高校の家庭科の教諭の、どのように教えたらいいかについての研修会に一度呼んでいただいただけです。
ですが、秘密法が通った頃から、危ないと思い、心配でいてもたってもいられなくなって、去年の6月に、京都弁護士会の自分の仲良しに声をかけて、会(「安保法制に異議あり!怒れる女子会@きょうと※男子も可」)を作りました。運動を頑張ってきた人もいますが、ほとんどがそういうことはしていなかった人、どちらかというと政治活動は嫌いという人たちが集まって、blogやFacebook、弁護士会の中での勉強会などをしてきました。

   安保法制が通ってしまってから、勉強会の講師をしないといけないと思い、やっています。それはなぜかというと、「安保法制は自衛隊の問題だから自分は関係ない。」と思っている人が結構いるので、安保法制を廃案にするためには、安保法制が「民間人組み入れ体制」の法律群であることを皆が勉強して、自分の問題だと考えてもらうのが一番効果的なのではと思ったからです。安保法制は一般人にとってたいへんな法律な割には、国会でちっとも質問をしてくれないので。私、京都生協の監事を3年ほどやっていたので、「勉強会の講師にさせて」と無理に頼んで勉強会をやって、それから生協関係に呼んでもらえるようになりました。その後いろいろ他でも呼んでくださって、きょう、呼んでくださって、すごくありがたいなと思っています。

   ですので、憲法については下手なところもいっぱいあって、皆さんのほうが勉強しておられるかもしれないので、なるべく質疑応答という感じでやっていきたい。私、早口になるので、わかりにくかったら、挙手していただいて、ストップかけていただいたら止まりますので、よろしくお願いします。

 

憲法クイズに挑戦!

    最初に、憲法クイズを皆さんに取り組んでいただきたい。10分間クイズ。これは、名前を書く必要もないし、成績もつけませんし、合議していただいても結構です。ただ、後で学習するときに、正解を見ながらやっていきます。では今からスタート。15分までよろしくお願いします。

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5.聞いたことがある言葉に○をしてください。

 赤紙、白紙、丸荷、食糧配給制、供出、徴発、徴用、建物疎開、集団自炊、集団疎開、京都市国民保護計画、武力攻撃事態、存立危機事態、武力攻撃災害、指定公共機関、業務従事命令、収用、自主防災組織、総合防災訓練

 

6.2014年の衆議院小選挙区選挙について、正しいものに○をして下さい。

① 戦後最低の投票率だった。

② 自民党は、全国295の選挙区で223議席、76%の議席を獲得した。

③ 自民党の得票率は70%だった

④ 自民党の得票率は30%だった

⑤ 自民党の得票率は48%だった

⑥ 有権者全体での自民党の得票割合(絶対的得票率)は17%だった。

 

 では、時間切れということで。エル・コープの皆さんは、学校時代、真面目な生徒だったことがよくわかりました。
 解答用紙は持っておいていただいて、意識しながらやっていきます。
 レジュメは3種類ありまして、「はじめの一歩学習会」というのが本体のレジュメです。あと、スクリーンにも映しますけれど、図が描いてあるレジュメです。
 これはほとんどが「内閣官房国民保護ポータルサイト」か防衛省、自衛隊のホームページ、政府が発表している絵や図を使っています。それから年表があります。安保法制は年表を見ないとわからないところがありますので。この3つを使いながらやっていきます。

    安保法制は非常にわかりにくい法律群ですし、私の教え方も下手なので、わからないときは手を挙げてストップかけていただいたらと思います。

 

違憲は決着済み

 最初に、本体のレジュメで「1.憲法と安保法制」とタイトルをつけています。今回の安保法制は11本の法律の束と言われましたが、これが違憲だということはもう決着しています。 
最初に衝撃的だったのは、去年の6月4日、衆議院の憲法審査会で、自民党が推薦した参考人を含む3人の憲法学者が、3人とも違憲だと明言したところから始まったわけです。
   参考人のひとりだった小林節先生がおっしゃるには、この審査会は、すごく眠たい感じだったけど、初めに長谷部教授、秘密法に賛成した方ですが、「安保法制は多岐にわたっていてその全てと言う話にはならないが、まずは、集団的自衛権の行使が許されるという点について憲法違反というふうに考えている。従来の政府見解の枠内では説明がつかないし、法的な安定性を大きく揺るがす。自衛隊が外国の軍隊の武力行使と一体化するおそれが極めて強いと考えている。」と言った途端に、小林先生の前にいた自民党の議員が、人間ってあんなにびっくりできるのか、というぐらい、ゾンビみたいな顔になったとおっしゃっていましたが、それぐらい衝撃的だったという話です。

 この憲法学者の後で、1000人の憲法学者(例外3人とか言っていますが)、あるいは弁護士会、元最高裁判事、元最高裁長官、元内閣法制局局長という方が、違憲と言った。法律の専門家は違憲だと明言しました。
 弁護士会ですが、私は、友人のリケジョ、理系の大学教員から、「弁護士会ってあんなに運動して、左翼だったのね。」と言われましたけど、弁護士会は強制加入団体なんですね。医者は医師会に入らなくても開業できますが、弁護士は弁護士会に登録しないと開業できません。なので、いろんな考え方の人がいますが、前代未聞の運動をした。私、今年25年目の弁護士ですが、京都弁護士会が円山音楽堂に5000人集めてパレードするなんて、なかったことです。今まで、刑事訴訟の可視化の問題や民事訴訟法の問題などで弁護士会がパレードをしたことはありますが、ああいう課題でやったのは初めてのことで、皆さんもたくさん来てくださって、ありがとうございます。

 あと、最高裁の長官、最高裁のトップですが、裁判官というのは絶対にしゃべらないんですね。事件のことはもちろんしゃべらないし、政治的な発言も絶対しないで、ひっそりと、ひたすら事件と取り組んでいる人たちですが、その人たちがしゃべった。最高裁の元長官が違憲と言ったんです。
 内閣法制局は、内閣の中で法律が憲法に違反しないかをチェックしたり、あるいは合憲の「言い訳」を考えたりしている部局です。その人たちも言った。元局長の人たちが言ったということです。

 

なぜ違憲か~近代立憲主義

 なぜそうだったのか、これは先ほどの憲法クイズの問題1~4に関係します。

 憲法の原則、それに大きく違反するということがはっきりしていたからです。
 1つは、立憲主義に違反するということです。学者の会で「立憲デモクラシーの会」というのができて、あっという間に会員が増えたんですが、立憲主義に違反するからダメだということで、いろんな考え方の人が一気に運動に参加したということがあります。

 じゃあ、立憲主義って何なのかということですが、クイズで言うと2番と3番です。

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   「日本国憲法の尊重擁護義務がある人」に◯を付ける問題で、「18歳以上の国民」という答に◯をした人は?
 ◯をした人は間違いですね。この中で「18歳以上の国民」以外は、内閣総理大臣、国会議員、裁判官、公務員まで全部、憲法尊重擁護義務があるんですが、国民にはないんです。国民には憲法の尊重擁護義務はないんです。それはなぜかというと、憲法は権力を縛る道具だからなんですね。
 クイズの問題1(「知っている人物に○をしてください」)に関わるんですが、みんな学校時代に習いましたね。ジョン・ロックとかホッブスとかモンテスキューといった人たちがいろいろ考えたんです。例えばルイ15世のような王様が、好き放題していた時代があったわけです。それを、王様であっても、権力を縛る枠を作っておかないといけないと。それが憲法なんだと。そのことによって、王様のムチャを許さずに、国民の人権を守っていきましょうという発想なんですね。ジョン・ロックという人は、そもそも人権というのは、王様のお恵みではなくて、天から与えられた人間に自然に備わっているものだと言った人ですね。ホッブスは、国家というのは怪物だ、リヴァイアサンだと言った人です。モンテスキューは権力分立を言った。憲法で権力を縛るんだけど、その権力も1つだけに集中するのではなくて、分散させることによって、権力の横暴を防いでいきましょうと言った。
 これは、フランスの人権宣言(1789年)や、アメリカの独立宣言(1776年)などにつながっていく。みんな、18世紀の話ですね。

 

 6月4日の憲法審査会の参考人の先生方の発言は、安保法制を違憲と言った部分が取り上げられているけれど、実は、延々と立憲主義とは何かという解説をされていたんですね。小林先生も、本来どんなに多数派であっても、国会で選ばれた多数派の内閣であっても、あるいは内閣総理大臣であっても、絶対に守らないといけない憲法の基本・価値的限界があるんだ、今回、それにぶつかってしまうということで、単に手続き論ではなくて、立憲主義という根本原理を踏み外してしまうから違憲なんだというふうに言った。こんなの通ったら17世紀の国になっちゃうよね、ということなんです。それぐらい立憲主義という憲法の根幹に反するものだったということがあったんです。

 

なぜ違憲か~日本国憲法の基本原理と究極の価値

 では、憲法の基本・価値はなにか。クイズの問題4「日本国憲法の基本原理と憲法の究極の価値」に行きます。まず、憲法の三大原理、高校の倫社や政経で習ったと思います。正解を言うと、目的は「人権保障」ですね。手段の箱には「平和主義」と「国民主権」が入ります。日本の憲法は世界でも特異な憲法で、特に、大日本帝国憲法の下で悲惨な戦争をして、日本人もたくさん死んだけれども、アジアでもたくさん侵略したということで、戦争は最大の人権侵害であるということで、平和主義で人権を守っていく。それから、国民主権ということによって、国民の人権が弾圧されたり侵害されたりしないようにしましょうと、そういう考え方です。

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 太枠の箱の正解は、これから言います。これが書けた人は素晴らしいと思います。

受講者/立憲主義ではないんですか?

山下/違うんです。

受講者/間接的民主主義ですか?

山下/それも違う。問題4の太枠のところには、憲法が最高の価値と考えている言葉を入れてくださいということで、すごく哲学的なんですが、ここには「個人の尊重」が入ります。これ、正解だった人は?

受講者の1人だけ手を挙げる。

山下/わー、素晴らしい!

手を挙げなかった受講者/(正解だった人は)学校の先生だから、ちゃんとしっかり・・

山下/社会の先生でした?

正解の受講者/去年の夏、「キラキラ憲法」を書かれた・・・

山下/「セキララ憲法」ですね。

正解の受講者/あ、「セキララ憲法」か。その方の講演を聞いて。

山下/なるほど。素晴らしい。彼女も、女子会の一人です。

 

 それで、「個人の尊重」、これは平たく言えば、「人はみな同じ」ということと、「人はみな違っている」ということ、その両方を合わせて尊重していこうという考え方で、ある意味、徹底して個人主義の憲法なんです。それはわがままを言っていいと言ってるのではなくて、全体主義とか、あるいは国民は国に仕えるものとか、国家が決めた一定の価値観や世界観に従わねばならないとか、そういうのとは違って、人は違っていいんだと。「みんなちがって、みんないい」っていう金子みすずの詩的なところがあるんですけれども、一人ひとりを人間としての価値において対等に、尊厳ある人間として扱っていくんだ、そういう価値観を持っているということです。これも、近代立憲主義の考え方ですけど現代的ですね。

 だから、大日本帝国憲法のように、国のために、天皇のために尽くすのが国民・臣民だという考え方じゃなくて、国のために個人を犠牲にしないんだと。一人一人の人が、もちろん機会の平等ということも必要なんだけど、それぞれの個性や違いを尊重して生きられる。自分なりに何を幸福かと感じるかは一人一人の自由だし、何が幸せかを他人や国に決めてもらう必要もないんだと。それぞれの国民をみんなとは違う個人として尊重していかないといけないんですよというふうに憲法に書いてある。

 それは、憲法の13条です。「すべて国民は個人として尊重される」という条文があって、その後に続いて「生命、自由、および幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする」と書いてある。個々人が自分としての幸福を追求する権利があるんですよ。そのことを国政の上で最大尊重しないといけないんですよと宣言をしているんですね。だから、憲法の中で、例えば9条がいちばん大事だとか、前文が大事だとか、いろんな人がいますけど、私なんかは13条がいちばん憲法の根本的な価値観を表している条文だと思います。私も、司法試験の勉強を始めて、このことを知って、本当にびっくりしたんです。なんて素晴らしいんだと。それで、憲法が大好きになったんです。

 今、クイズの問題4の箱の説明をしましたが、今回の安保法制というのは、要するに、個人の尊重を徹底してはかっていくための手段としての平和主義、その中でも9条で基本的に戦争はしないんだ、自衛隊はあるけれども専守防衛なんだというふうに政府も考えてきているわけですが、それを踏み越えてしまうということなので、違憲だと言った。
 6月4日の3人の憲法学者の中に、笹田先生という早稲田の先生がいて、その先生は、「内閣法制局の、ガラス細工と言えなくもない、ギリギリのところで保ってきた」憲法解釈の枠を踏み越えてしまった、と言ったんです。
自衛隊がどんどん大きくなっていって、1990年くらいから海外にも行くようになって、その中で、専守防衛というのとはだんだんと現実と理屈が合わないようになってきているんですが、なんとか内閣法制局で9条には違反しないんだと、理屈付けをしてきたわけです。でも、そういうガラス細工のようにもろい均衡さえ、今回、露骨に破ったから、「違憲です」と言った。そういうものだということを、まず捉えていただいたらと思います。

 

憲法と法律のちがいは?

 憲法クイズの問題3もここで見ます。「憲法と法律の違いは何ですか」という問題ですが、正解は、憲法は権力を縛るもの。国民を縛るものじゃない。でも、法律は国民を縛るんです。国民に憲法擁護義務はないけど、法律を守る義務はあるんです。だから、安保法制ができたら、それが違憲であっても、国民は守る義務があるわけですよ。後でも国民保護法とか自衛隊法103条とか出てきますが、国民に対する強制措置がある。それに違反したら罰金の場合もあるし、懲役の場合もあるわけです。それは守らないといけないから、一旦は刑事事件にされちゃうわけです。砂川事件みたいなものですよね。砂川事件は、基地が違憲だと言って、柵を切って入った人がいたわけですよね。それで刑事事件になった。で、そもそも、その元になっている日米安保条約が憲法に違反していると言って無罪を争ったのが砂川事件だったんですね。でも基本的に、法律は守らないといけないでしょと。住居侵入罪になるでしょ、フェンス破って入ったらねというふうに。私たち国民は、例えば、道路交通法であったり、刑法であったり、守っていますよね。そんな中に区別なく安保法制も、法律だから守らないといかんとなってくるということですね。だから廃案にしないといけないんです。放っておいたらあかんということです。

 

立憲主義は懐疑的

 あと、立憲主義の補充なんですが、立憲主義って、すごく懐疑主義なんです。先ほど憲法は権力を縛ると言いましたが、国民も信用していない、民主主義も信用していないんです。例えばナチスも、ユダヤ人虐殺であったり、ヨーロッパ侵略であったり、ポーランド併合だったりしていきますが、あれは結局、国民が支持したわけですよね。全権委任法という法律も、国民が選んだ国会議員が国会で作ったわけです。あの時、民主主義、一応あったわけですよね。何も、国民はすべてヒットラーの被害者だったんじゃなくて、国民が自ら選挙で選んでいったところもあるわけです。もちろん、デマや宣伝とかはあったのですが、いろんな流れで、国民が誤った選択をする場合もあるわけです。民主主義であっても、間違った法律を作ることはあるわけです。今までの歴史にいくらでもあった。
 そういう意味で、民主主義に対しても、国民が誤った選択をするかもしれないということで懐疑的。国民が選挙で選んだ議員が作った法律であっても、やっぱり憲法に違反したらダメでしょ、最終的には憲法の平和主義に違反したらダメでしょ、憲法の個人の尊重という価値観に違反したらダメでしょうという意味で、誤った民主主義に対してストップをかけるという側面がある。

 この辺になってくると、国民がしっかりしなあかんという話になるから、憲法尊重擁護義務は国民にもあるんじゃないの?と思う人がいるんですけど、そこはちょっと違う。国民として憲法を守って生きていこうということと、法律上の義務とは、線を引いておかないといけないということです。なぜかということは、自民党の改憲草案を見ればわかります。草案では、国民に憲法尊重義務を課す規定を新設しています。他方で、天皇の憲法尊重擁護義務は無くなってます。あくまで権力を縛るものが憲法だということを、見ておいてほしい。                        ( 続く)