ウェブ学習会「民間企業・民間人組み入れ編」第1回~民間企業・民間人に対する強制措置
民間人が危険な業務に従事することになる強制措置が、すでに、自衛隊法など安保法制で定められています。自衛隊法は、自衛隊の組織や自衛隊員の任務だけを定めた法律ではないのです。
整備完了とフローチャート
民間企業・民間人組入体制や強制措置を含む有事法制は、2003年に成立した3つの法律(武力攻撃事態対処法、自衛隊法等一部改正法、安全保障会議設置法一部改正法)と2004年に成立した7つの法律(米軍行動関連措置法、自衛隊法一部改正法、海上輸送規制法、特定公共施設利用法、捕虜取扱い法、国連人権法違反処罰法、国民保護法)の合計10本で、ほぼ整備が完了しています。
有事関連三法と有事関連七法の関係 - 内閣官房 国民保護ポータルサイトより
「海上輸送規制法」は、敵側の軍用品を輸送する船舶の停船・臨検・拿捕ができるようにしたものです。
「特定公共施設利用法」は、空港、港湾など国内の公共施設を自衛隊、米軍が優先的に利用できるようにしたものです。
「捕虜取扱い法」や「国際人道法違反処罰法」は、捕虜にした敵兵の人権を守りましょうetc.の法律です。
「自衛隊法」、「米軍行動関連措置法」、「国民保護法」は、ビッグなので後で説明しますね。
こういう法律の束は、なぜ作られたのでしょうか?
超要約すると、次のフローチャートになります。
米軍の戦闘に、自衛隊がいっしょに行動することになり、自衛隊が、米軍に、物品や役務(サービス)を提供することになった
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自衛隊員だけではサービス要員が不足する
自衛隊の備蓄だけでは物資が足りない▼
民間企業、民間人の協力が必要
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協力体制をつくる,協力しない企業・人には強制措置
上の2番目の絵に、米軍と日本が「戦闘」の場合にいっしょにいます。自衛隊のジープが米軍のトラックを先導して道路を走っています。
積んでいるのは、燃料や、建材?(黄色だとお米でしょうが緑で土管のように見えます)ですね。それらは、港や空港から運ばれることを赤い矢印で記してあります。
戦争をするためには、
水、食糧、燃料、食事を作ってくれる人、
人員と物品の輸送、
陣地、橋、道路、空港、港、船、飛行機の修理や整備、
ケガをした兵士などへの医療、医薬品 etc.etc…
たくさんの後方支援業務と物品が必要です。
それを米国が日本に要請、自衛隊は米軍に物品や業務サービスを提供する約束をした。そこで、約束を実行するための法律が整備されたのです。
どうしてそういう約束をすることになったのか、については、「民間人に対する強制措置が整備された理由 ウェブリアル学習会実況版3」をご参照下さい。http://gekidojo-kyoto.hatenablog.com/entry/2016/05/14/115329
今回は、自衛隊法に定められた、国民に対する「強制措置」を見てみましょう。
自衛隊法103条‥‥自衛隊の防衛出動の場合の国民への強制措置を定めた条文(のひとつ)
まずこの図を御覧ください。
http://www.clearing.mod.go.jp/hakusho_data/2002/zuhyo/main/az143017.htmより
この図は、平成15年6月6日に成立した「自衛隊法及び防衛庁の職員の給与等に関する法律の一部を改正する法律」のうち自衛隊法103条についての政府の説明として、平成14年版防衛白書「第3章 国家の緊急事態への対応と日米安全保障体制に関連する諸施策」「第4節 武力攻撃事態への対応に関する法制への取組など」に掲載されているものです(改正当時は防衛庁でしたので、図では「長官」となっていますが、現在では防衛省ですので「防衛大臣」となります。)。
基本的スキーム
自衛隊が防衛出動したとき、自衛隊が行動する地域で、自衛隊の任務遂行のため、都道府県知事が、防衛大臣等自衛隊幹部の要請を受けて、地域の企業や府民に対し、さまざまな強制措置をとれることになっています。自衛隊の幹部が、出動した現場で、現場の府県の知事に要請し、知事が府民に要請または措置するというスキームです。
ここで、自衛隊の幹部とは、方面総監、師団長、旅団長、中央即応集団司令官、自衛艦隊司令官、航空集団司令官、地方総監、航空総隊司令官、航空支援集団司令官、航空方面司令官、航空混成団司令、補給統制本部長、補給本部長で、防衛出動を命じられている自衛官です。これら自衛官は、政令で、つまり、国会の決議によらず内閣の決定で増やせます。
知事の強制措置は、「できる」となっているので、府民の所有権や経済活動に影響の大きい強制措置をとることに躊躇したり抵抗したりする知事も出るかもしれません。そこで、防衛大臣または自衛隊の幹部が、緊急を要すると認めたときは、知事に通知すれば、知事を飛び越えて、府民らに対する強制措置を行うことができます。
【自衛隊が防衛出動した時、自衛隊の行動に係わる地域での強制措置等】
(1)病院、診療所、自動車整備工場、造船所、港湾施設、航空機、航空器機の整備 施設、自動車・船舶・航空機の給油施設の使用
(2) 土地、家屋、物資の使用(民間企業の所有物件も、個人のものも対象)
(3) 物資の生産、集荷、販売、配給、保管、輸送の業者に対して、取り扱い物資の保を命令し、物資の収用を命令すること
収用は、物資の所有権を強制的に移転することです。
【自衛隊の行動に係わる地域以外での処分】(自衛隊法103条2項)
自衛隊の行動に係わる地域以外でも、防衛大臣または自衛隊の幹部が、自衛隊の任務遂行上必要があると定めたら、内閣総理大臣が告示して定めた地域で、都道府県知事は、防衛大臣または自衛隊の幹部の要請にもとづき、上と同じようなことができます。
(1) 病院、診療所その他政令で定める施設の管理
(2) 土地、家屋、物資の使用
(3) 物資の収用
(4) 物資の生産、集荷、販売、配給、保管、輸送の業者に対して、取り扱い物資の保管命令
(5) 医療従事者、土木建築工事業者、輸送業者への従事命令
従事命令の対象になる医療従事者、土木建築工事業者、輸送業者の範囲は、 政令で決めます(つまり国会で決めなくても内閣で決めていい)(自衛隊法103条4項)
【土地の使用の際の処分】(自衛隊法103条3項)
自衛隊が土地を使用するとき、自衛隊の任務遂行の妨げになる物件を、移転したり、処分したりできます。木を伐採したり、土地の上にある、機材などの移転や処分です。自動車や但し家屋は除かれています。
【家屋の使用の際の処分‥家屋の形状変更】(自衛隊法103条4項)
自衛隊が家屋を使用するとき、自衛隊の任務遂行上やむをえないときは、 家屋の形状変更ができます。形状変更といえば、増築、減築、改装と思われます。
「存立危機事態」の場合は強制措置は発動されない?
今まで述べてきた自衛隊法103条に基づく強制措置は、「武力攻撃事態等」の場合に限られていて、「存立危機事態」の場合には、強制措置はできないことになっています。
つまり、日本が、他国など外部から武力によって、攻撃されたか、攻撃される寸前の事態で自衛隊が出動する場合にのみ、国民は協力を求められることになっていて、よその国に対して武力攻撃が発生したこと(存立危機事態)を理由に自衛隊が出動するときには、国民に対する強制措置はできないことになっています。
※武力攻撃事態、武力攻撃予測事態、存立危機事態がどういう場面のことかは、ウェブ学習会本編の第1回を復習してみてくださいね。
そのため、「日本が攻撃されたときくらいは協力しないと!」と思う方もいるかもしれません。
しかし、よその国に対する攻撃が発生した場合に、内閣総理大臣が「存立危機事態」と認定して自衛隊が出動する事態となったら、日本以外の国はどう思うでしょうか。
日本が攻撃してくるのだから、日本の領土、領海、領空にも攻撃するぞ、と考えるのが通常ではないでしょうか。
つまり、安保法制の成立により自衛隊が出動する場合として「存立危機事態」が加わったことで、「武力攻撃事態等」を引き起こす危険が以前より大いに高まっているのです。
ですので、安保法制の成立により、国民が強制措置を受けるリスクも、以前より大いに高まったといえるでしょう。
また、より問題なことに、安倍首相が国会でつぎのような答弁をしていることがあります。
「現実の安全保障環境を踏まえれば、存立危機事態に該当するような状況は、同時に武力攻撃事態等にも該当することが多いと考えられます。」(2015年7月15日の衆議院平和安全法制特別委員会における安倍首相の答弁)
安倍首相の上記答弁は、これまでの「武力攻撃事態等」の文言解釈の幅を広げることを示唆しています。つまり、政府はそもそも「武力攻撃事態等」と「存立危機事態」を明確に区別しないで運用しようとしているようでもあり、そうなれば、国民は「あれよあれよ」という間に強制措置を受けることになりかねません。
「武力攻撃事態等」にあたる場合を解釈で勝手に広げたり、「武力攻撃事態等」と「存立危機事態」という別の事態とされる概念を明確に区別しないで運用することは本来許されないことです。
しかし、専門家からこぞって違憲と指摘された安保法案を平然と強行した政府・国会です。事後的に裁判所なりが政府の判断を是正しようとしても時すでに遅しとなることも容易に予想されます。
今回の改正で「存立危機事態」が加わったことは、私たち一般の国民にとっても、非常に重大なことなのです。
だから、冒頭でお伝えしたように、安保法制は自衛隊員だけの問題だなんてとても言っていられない状況であることが、わかっていただけるかと思います。
(つづく)
(弁護士 山下信子)
第2回はこちらからご覧いただけます。