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【京都の弁護士グループ】安保法制に異議あり!怒れる女子たちの法律意見書(※男子も可)

怒れる京都の女性弁護士たち(男性弁護士も可)が安保法制の問題点について意見するブログです。

近未来ミニ小説「あしたの世界」第5話 こうして財産、仕事、命を取り上げられた

近未来ミニ小説「あしたの世界」

 私は田村A(70歳)。私は、日本海沿いの風光明媚な町に、田畑と山林を所有し、手広くメロン・桃など果実の栽培を営む専業農家である。

 私は、長年、地元の農業関係の役職を担ってきた。今も現役で、妻、長男、長男の嫁といっしょに畠に出ている。

 近在には田村姓が多いので、今でも屋号で、あるいは、名前で呼び合っている。私の家は親戚中の本家にあたる。

 分家のB家は、京都府職員で町の支所に勤務する甥が継いでいる。

 親戚には、

  建設会社を経営するC家
  運送会社を経営するD家
  旅館を経営するE家
  病院を経営するF家
  ガソリンスタンドを経営するG家
  スーパーマーケットを経営するH家

 があり、地元では、田村一族は名士だと言われている。私は、自分の老後の安泰と一族の繁栄を信じていた。

 

 2020年7月はじめ、府職員の甥Bを通じ、京都府から、私の所有地である山林を使わせてほしいと、要請があった。
 私たちの町に自衛隊が出動し、自衛隊の陣地を構築することになって、私の所有する山林が、その建設予定地になったというのだ。自衛隊のために必要なら山林の木は伐採されるという。

 当然、私は断った。この山林には、自宅屋敷の建て替えのために、私の祖父が植えたヒノキ数本があるからで、これを守るのがA家の当主である私の役目だからだ。

   そこで、慌てた甥が、私を説得しようと、私の自宅にやって来た。
 以下、私と甥Bとの会話。

 

私:先祖代々の山とヒノキを守るのが当主のつとめやということは、分家を継いだおまえにも、ようわかってるはずや。
     なんで協力せなあかんのや? 断ってなにがわるい? いったいどういうことや?

 

甥:秘密の部分が多くて、ようわからんのですが‥‥、どうも、近い将来に、日本に対して、✕国のゲリラ攻撃があるかもしれないという情報が入ったらしくて、自衛隊がこの町に出動して陣地を建設することになったんです。それでおじさんの山林が建設予定地に指定されたんです。
 おじさんが断っても、山は強制的に使用できます。これは、自衛隊法で決まっているんです。

 

私:日本が攻撃もされていないのに、「ゲリラ攻撃があるかもしれない」というだけで、自衛隊が出動するのか? その自衛隊のために、強制的に私有地を使えるのか? おかしいやないか!?

 

甥:「かもしれない」の時点でも、政府が、「日本に対する直接の武力攻撃が発生する危険が切迫している」と認定したら、内閣総理大臣が自衛隊に出動命令を出せるし、民間人に強制措置ができるんです。都道府県や市町村は、国に協力して、民間人への強制措置の手続を行っていく義務があるんです。おじさんの山の使用も自衛隊の幹部から京都府知事に要請があったからなんです。
 こういうことも自衛隊法や武力攻撃事態対処法で決まっているんです。

 

私:そんなこといつ決まったんや? 

 

甥:1954年に自衛隊ができたときから条文はあったけど、2003年、2004年に、整備されたんです。

 

私:そういえば有事法制とか言って、反対している人がおったなあ。そのときは他人事やと思ってたわ。
 とにかく、おまえが、なんとかせい! そうや!今から一緒に、町長のところに行こう。そして一緒に知事に陳情に行こう。

 

甥:申し訳ありません。どうにもなりません。どうすることもできません。
 おじさんが拒否しても、「公用令書」が発布されて、強制的に土地を使われるし、木も伐採されます。
 でもね、山が使えなくなることや、木を伐採したことによる損害は、ちゃんと府が補償しますから。だから安心してください。だからこらえて下さい。
 僕も嫌な役目をさせられて苦しいんです。ストレスで身体を壊しそうです。

 あ、それから、どうせわかることやから今伝えておきます。
 おじさんの山の木の伐採工事は、Cの建設会社がやります。伐採した木の搬出は、Dの運送会社がやります。

 

私:なんやと?  CもDもうちの分家筋やないか。

 

甥:仕方がないんです。
 自衛隊の陣地にする建物の建築は、国からゼネコンが請け負ったんですが、Cの会社はゼネコンの孫請けで、今回の件を断ったら、次から仕事をもらえなくなるんです。死活問題なので断れないんです。
 それから、トラック運送会社のDですが、京都府のトラック協会が「指定地方公共機関」に指定されていて、国の措置に協力することになっているから、この協会に入っているDの運送会社も、仕事を断れないんです。

 

私:分家が本家の山をつぶすことに協力するのか。なんと嘆かわしいことや。
 こうなったら裁判するしかない。「行政不服審査請求」(ぎょうせいふふくしんさせいきゅう)という手続があるらしいから、弁護士にその手続をしてもらうことにする。

 

甥:すみません。不服審査請求はできないんです。これも自衛隊法で決まってるんです‥‥。

 

私: 絶句。。。

 

    

  こうして、私が所有する山は、所有者である私が使えない山になり、木の伐採・搬出計画も決まった。断腸の思いだが仕方がない。私にはまだ田畑も家屋敷もあるので、辛抱するしかないと自分を納得させることにした。

 しかし、それだけでは済まなかった。私にも、親戚にも、田村一族には、次々と、強制措置の苦難がふりかかってきたのである。

 

 ✕国の日本に対するゲリラ攻撃は、予想に反してなかなか行われなかった。そして、✕国は、日本に対してではなく、米軍に攻撃を仕掛けていった。それは2020年10月のことで、私の木の伐採が始まる前だった。私は、✕国の攻撃の矛先は米国だから、私の山に自衛隊の陣地を作る計画はなくなるのでは、と期待した。

 ところが、政府は、日本が攻撃されていないにもかかわらず、米軍が攻撃されたことにより、日本の「存立危機事態」にもあたるんだと認定した。そして自衛隊は米軍やその同盟国軍と対応しながら行動することになった。

 ところで、「存立危機事態」だと民間人や民間企業に強制措置はできないのだが、政府は、2015年の安保法制国会が始まる前に与党間で確認していたとおり、「存立危機事態」は「武力攻撃事態」と重複すると評価して、「武力攻撃事態」の場合(つまり日本が直接武力攻撃を受けた場合)にしか発動できないはずの強制措置を次々と発動していった。

 

 まず、私の山林への自衛隊の陣地建設計画は、なんの変更もなく開始された。

 それに加えて、私の自宅屋敷は、自衛隊の幹部の要請を受け、自衛隊のために、府知事が使用することになった。具体的には、自衛隊の幹部の宿舎に宛てられることになって、私たち家族は、自分の自宅から出て転居することになった。

 転居後、私の自宅は、「将校の自宅」用に使用するための必要な措置として、「形状変更」、つまり、間取りの変更をはじめ改築改装されてしまった。二間続きの和室は、洋間に改装され、高価な銘木の床柱は壊されてしまった。

 これでは、第二次大戦中の「接収」と同じではないか。

 

 私だけではない。Eの経営する旅館は、自衛隊員の宿舎にするために、府知事が管理することになった。旅館の営業はできなくなり、旅館内に住まいがあった家族も転居した。和風の旅館も「形状変更」された。これも「接収」というほかない。

 

 Fの経営する病院は、府知事が管理することになった。米兵らが負傷した場合の治療のためだという。

 病院の医師、看護師、放射線技師、薬剤師には、業務従事命令が出た。第二次大戦中の「徴用」のようだ。

 

 ガソリンスタンドを経営するGには、ガソリンの保管命令が出た。自衛隊や米軍・その同盟軍のために、ガソリンが大量に必要になるので、その売り渡し要請(「徴発」とか「供出」か)、「収用」(強制的に所有権を移転してしまうこと)に備えて、物資の保管命令が出たのである。

 ところが、Gは、ガソリンを、地元の若い主婦に売ってしまった。私たちの町は、交通過疎で、自動車がないと暮らせないのだが、自衛隊や米軍・その同盟軍のために、ガソリンが不足して車が使えず、住民は困り果てた。若い母親から、子どもを病院に連れて行けないと泣きつかれて、Gは、善意から、ガソリンを売ってあげたのである。

 ところが、Gは、このために逮捕・起訴されてしまった。Gが善意でしたことが保管命令に違反するということで、保管命令違反には、6ヶ月以下の懲役か30万円以下の罰金刑があるのだ。

 わが一族から逮捕者が出たのははじめてであった。Gは今も勾留されたままである。Gは、そもそも地元の気の毒な人のためにガソリンを売る行為を処罰するような法律がおかしい、憲法に違反していると主張している。すると容疑を否認しているということになって、保釈もとれず、ずっと勾留が続いている。Gの妻と幼い子どもたちは、働き手のGの不在が続いて生活費に困り、妻の実家に帰ってしまった。

 

 でも、逮捕されても、命があるだけましである。

 私の山の木を伐採し、自衛隊の陣地を建設する作業に従事していたCは、死んでしまった。

 陣地の建設は、相手の国の神経を逆なでする行為である。✕国は、建設中の陣地めがけてミサイルを発射してしまい、建設作業員が多数死亡したり、重い後遺障害を負ったのだが、Cも死亡し、妻と幼い子どもが遺された。Cの死亡により、Cの建設会社は廃業した。

 

 こうして、私と私の家族、私の親戚は、財産を失い、逮捕され、命を失った。不幸のもとになったのは自衛隊法をはじめとする安保法制である。
 2016年7月10日の参議院選挙でこの安保法制を廃案にするために選挙権を行使していればよかったのに、私はそうしなかった。
 後悔しているが、私の一族が体験した不幸は、安保法制がある限り私たちだけの不幸では終わらないのだ。 

 

                                                   (弁護士 山下信子)