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【京都の弁護士グループ】安保法制に異議あり!怒れる女子たちの法律意見書(※男子も可)

怒れる京都の女性弁護士たち(男性弁護士も可)が安保法制の問題点について意見するブログです。

ウェブ学習会「安保法廃止に至る現実的なルートは何か」(中)~選挙による安保法反対派当選の可能性

ウェブ学習会

 前回では、安保法違憲判決が下される可能性自体はあるものの、それがいつになるか判らず、早期解決を期待しても裏切られるおそれが強いことがわかりました。

ウェブ学習会「安保法廃止に至る現実的なルートは何か」(上)~裁判所による違憲判決の可能性 - 安保法制に異議あり!怒れる女子たちの法律意見書(※男子も可)

 そこで、次は裁判所という他人に下駄を預ける方法ではなく、国民が自ら安保法廃止を実現する方法、つまり選挙による安保法廃止ルートについて考えてみたいと思います。

 ちなみに、安保法廃止法案については平成28年2月に野党5党が国会に共同提出していますが、与党が今日まで審議に応じず何らの進展もありません。

www.tokyo-np.co.jp

 与党の対応はいかがなものかと思います。
 しかし他方で、廃止法案を出したら誠実にこれを審議し、素直に廃止法案に賛成票を投じる与党でもないだろうということはハナから分かっていたことでもあります。
 国会で安保法廃止法案を通すためには、結局のところ、選挙で安保法反対派が勝つしかないのです。

有権者の投票行動のメカニズム

 有権者が選挙で投票行動に及ぶとき、
  情報受領 → 検討・判断 → 世論形成 → 投票行動
というメカニズムを辿ります。

 では、現代の日本でこのメカニズムが正常に機能できる環境があるでしょうか。

 特にこのメカニズムでは、「情報受領」するところがスタート地点とされており、情報発信を担うメディアの責任は重大です。
 メディアが機能不全に陥ってしまうと、この投票メカニズムも機能不全に陥ります

 ところが、昨今、報道の自由が危機だとか、日本のメディアが萎縮しているだとかいう話が聞こえてくることがあります。

報道の自由ランキング

 パリに「国境なき記者団(Reporters Without Borders)」という組織があり、毎年「報道の自由度ランキング (World Press Freedom Index)」を発表しています。
 今年のランキングは4月に発表されたばかりです。

rsf.org

「報道の自由度ランキング」では世界180カ国をランク付けしていますが、平
成16年以来の日本のランキングの推移は次の通りです。

2004年(H16) 42位
 小泉内閣
2005年(H17) 37位(↑5)
2006年(H18) 51位(↓14)
 平成18年9月第1次安倍内閣成立
2007年(H19) 37位(↑14)
 平成19年9月福田内閣成立
2008年(H20) 29位(↑8)
 平成20年9月麻生内閣成立
2009年(H21) 17位(↑12)
 平成21年9月民主党政権・鳩山内閣成立。
2010年(H22)  11位(↑6)
 平成22年6月菅内閣成立
2011年(H23)  
 3月東日本大震災
 9月野田内閣成立
2012年(H24) 22位(↓11)
 平成24年12月自民党政権・第2次安倍内閣成立
2013年(H25) 53位(↓31)
 平成25年12月特定秘密保護法成立
2014年(H26)  59位(↓6)
2015年(H27)  61位(↓2)
 平成27年9月安保法成立
2016年(H28)  72位(↓11)
 ※2012年のランキングは2011,2012年度版として発表。


 このようにランキングでは、平成22年に民主党政権下で最高位11位を記録し、自民党が政権奪還後一気に53位に転落し、今日の72位まで順位を落とし続けています。
 産経新聞ソウル支局長起訴事件を起こした韓国ですら日本よりは高順位です(2016年70位)。
 他国の順位変動を見てもこれほど激しく順位を落としているのはハンガリー版プーチンことオルバーン・ヴィクトルが首相を務めるハンガリー(2006年10位→2016年67位)や、経済危機にあえぐギリシャ(2005年18位→2016年89位)などごく一部の国に限られています。

 日本の報道の状況については、デビッド・ケイ国連人権理事会特別報告者も「日本の報道の独立性は深刻な脅威に直面している」と警鐘を鳴らしています。

 やはり現在の日本の報道の自由は非常事態を迎えているようです。
 しかし、日本がこれほどに報道の自由度ランキングの順位を落とした理由は一体何なのでしょうか。

記者クラブが報道の自由を阻害している!?

 この点について、報道の自由度ランキング2015年のレポートはまず、記者クラブ制度の存在を指摘します。

 記者クラブとは一般に、日本で活動する主要メディアがその取材先との関係でまとまった組織を形成し、会見を開いたり取材ルールを自主的に定めたりする、特定報道機関による取材のための機関をいいます。

 実態はというと、例えば、中央官庁に設けられている記者クラブは登録された記者の集まりとして存在し、取材対象機関の建物の中に記者室=プレスルームと、記者会見室=カンファレンスルームを備えています。
 プレスルームは社ごとに区切られ、専用の机や電話が置かれて記者が常駐しており、資料の配付等が行われ、カンファレンスルームでは記者クラブと機関側が連携しつつ会見・発表が行われます。

 このような記者クラブの存在は、①官公庁や企業側に対する権力監視機能が向上する、②官公庁等が発信する情報の受け皿となる、③報道各社の間の過剰な競争を抑止する、④記者教育の場となる、などのメリットを生むと言われます。

 しかし、実際には弊害の方が大きい、むしろメリットして説明されることが、現実には弊害となっていると言われます。

 例えば、官公庁側が記者クラブ主催の記者会見には応じるものの、それ以外の記者会見には応じないことで、記者クラブに加盟していない報道機関の記者が取材の機会を得られなくなります。

 例えば、記者クラブは官公庁側から解禁時間についての報道協定(いわゆる「しばり」)の打診を受けると、これを受け入れてしまい、一定時期までそのニュースが国民に伝わらなくなります。
 また、ある記者が「しばり」を無視してスクープを放てば、その記者は記者クラブ出入り禁止処分になります。

 例えば、記者クラブ所属の記者同士は取材結果を互いに確認する「メモ合わせ」を行い、ニュースの内容を均質化してしまいます。

 つまり、記者クラブは取材対象と記者クラブ、あるいは記者クラブ内部の馴れ合いを生み、外部の記者に対する排他性を生んでいます
 そしてその結果として、国民に届けられるべきニュースが国民に届かないことになります。

 結局国民が割を食っているのです。
 2002年にはEUから記者クラブ廃止を含む公式な改善申し入れがなされていますが、このことを知っている一般人も多くはありません。
 なぜならメディアがほとんど報道していないからです。


記者クラブの弊害が如実な例~甘利明元大臣辞任記者会見

 週刊文春は平成28年1月に、甘利明元大臣が建設会社からURに対する口利きを依頼され、見返りとして総額1200万円を現金や接待で受け取ったとの旨報じ、甘利元大臣は大臣辞任に追い込まれました。

 このときの辞任記者会見が正に記者クラブの弊害のお手本のような記者会見でした。

 甘利元大臣の疑惑の最大のポイントは当然、甘利元大臣が現金等を直接得ていたか、つまり、収賄罪の成否です。
 この点について甘利元大臣からどれだけ核心に迫る話を引き出せるかが記者の腕の見せ所であることは間違いないはずでした。

 このとき質問した記者は朝日新聞、読売新聞(2人)、日経新聞、テレビ朝日、フジテレビ(2人)、デモクラTVの合計8名で、このうちデモクラTV以外は記者クラブ加盟社です。

 こちらのサイトには甘利元大臣辞任会見の質疑応答全文がアップされています。

logmi.jp

 この質疑応答を見ると確かに、記者クラブ加盟社の記者も甘利元大臣に対して収賄疑惑に関する質問をしてはいます。
 しかしその質問はいずれも曖昧な内容のオープンクエスチョンで、甘利元大臣の回答に対して突っ込むこともしていません。

 日常的に尋問で、真実を話そうとしない者に真実を語らせようとする仕事をしている弁護士目線でみれば、このような質問の仕方をするような記者はそもそも真実を語らせる気がないとしか思えません。
 わざとでないならドヘタです。

 そればかりか、フジテレビの記者はまるで甘利元大臣が嵌められた被害者であるかのような質問を、日経新聞の記者はTPP署名式前に辞任することになった甘利元大臣に同情しているのかと思うような質問をしているという有様です。

 これに対してデモクラTVの記者の質問は具体的な内容を一問一答形式でしつこく聞いており、甘利元大臣から真実を引きずり出そうという意欲が感じられる内容になっています。
 記者クラブ加盟社の記者の質問のあり方とは全く異質です。

 記者会見後、マスコミ各社から報道がされましたが、収賄疑惑に鋭く切り込もうとする報道は必ずしも多くはありませんでした。
 そして、その後のネット上の世論調査では果たして「甘利元大臣は辞任する必要がなかった」が過半数を占めていました。

 私たち国民は、記者クラブ加盟社の取材だけで満足していていいのでしょうか。

 ちなみに、甘利スクープを放った週刊文春はもちろん記者クラブ非加盟です。


特定秘密保護法による報道の萎縮効果

 平成25年12月に、各地の弁護士会などから違憲の批判を受けながら、強行採決によって特定秘密保護法が成立しました。

 2015年の報道の自由度ランキングのレポートが記者クラブと並べて日本の報道の自由の問題点として指摘したのがこの特定秘密保護法です。

 特定秘密保護法はごく簡単に言うと、行政機関の長が「特定秘密」に指定する情報について、その取得や漏洩を厳重に処罰する法律です。

 ところが、保護の対象となる「特定秘密」が「その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」と極めて抽象的に定義され、何が「特定秘密」にあたるか国民がよく分からないという問題点をはらんでいると言われています。
 逆に言えば、政府側は何でもかんでも「特定秘密」にあたるとして保護の対象にしてしまうことができるような条文になっているのです。

 このような特定秘密保護法はその罰則を現実に運用しなくとも、国民の表現の自由や知る権利を制約する結果を生みます。
 いわゆる萎縮効果です。

 このような萎縮効果は自分が記者になったと考えるとよくわかります。
 例えばあなたが記者で、たまたま日頃から世話になっている知人から日本政府が核兵器の開発・研究に着手したという情報を入手したとしましょう。
 日本国民に大きな影響を及ぼす極めて重大な情報ですが、あなたはその情報を基にスクープ記事が書けますか。
 その記事を書けば、大きな反響を呼ぶことは間違いありませんが、あなたはお世話になっている知人と共に逮捕されるかもしれません。
 そうやって考えると、自分の人生をそんな重大な危険にさらしてでも、スクープ記事を書ける人が一体どれだけいるでしょうか。
 ほとんどの人は泣く泣くスクープ記事を諦めるのではないでしょうか。

 その結果、国民は日本の核兵器の研究・開発を知る機会を失い、これを発案、指揮した政治家は次期選挙においても、その点について何ら国民の審判を受けることもないでしょう。

 特定秘密保護法は、そこにあるだけで、密かに日本の報道の自由を強く圧迫しているのです。                                                                                           

(弁護士 谷口和大)

                            
※次回、「ウェブ学習会『安保法廃止に至る現実的なルートは何か』(下)」へ続きます。


http://gekidojo-kyoto.hatenablog.com/entry/2016/05/30/190215