【京都の弁護士グループ】安保法制に異議あり!怒れる女子たちの法律意見書(※男子も可)

怒れる京都の女性弁護士たち(男性弁護士も可)が安保法制の問題点について意見するブログです。

国会議事堂に警察官が入っていた!?~重大な憲法違反の疑い

 安保関連法案を審議する参院特別委員会は、横浜での地方公聴会を終えた9月16日の夕方以降、締めくくりの総括質疑を行おうとする与党側に対し、野党側が抵抗し、激しく対立しました。

 第1理事会室前の廊下には、審議が尽くされていないとする野党議員が殺到し、「衛視」が通路確保のために野党議員を排除しようとするなど混乱が続きました。
 その様子を、理事会室前にいた有田芳生参院議員(民主党)が、Twitterで、18時半ころより写真とともに報告していましたが、22:22ころ、次のようにつぶやきました。

 このことは産経新聞でも取り上げられ、「国会内の混乱の最中に私服の警察官ともみ合いになる場面があった」と報じています。

headlines.yahoo.co.jp

 これらは具体的事実の記載が薄く、事実関係の詳細については確認が必要です。

 しかし、もし仮に、私服警察官が国会議事堂の中に勝手に入り込んで、参院特別委員会の鴻池祥肇委員長の通路を確保しようとしていたとしたら、あなたはどう思いますか?
 「混乱してたんだから、警察官が衛視の応援に来たっていいのでは?」って思うでしょうか?

 

 実は、これはもう、大・大・大問題なんです!!
 日本国憲法の大原則を侵す、とんでもないことです!

 

 「三権分立」という言葉は、もちろんみなさんご存じだと思います。
 【国会】、【内閣】、【裁判所】が、それぞれ独立した機関として、お互いを抑制しあうことにより、権力の濫用を防ごうとする原則です。

 たとえば、安保法制の違憲性が争われている裁判に関して、【内閣】が【裁判所】に対して「違憲っていうなよ」と圧力をかけたらどうなるでしょうか。
 それはもうとんでもないですよね。この国の根幹が崩れてしまいます。 

 「三権分立」は、日本国憲法の大原則です。
 【国会】、【内閣】、【裁判所】がそれぞれ他の機関から不当な圧力を受けるようなことは決してあってはならないのです。

 

  圧力には有形、無形、様々なものがありますが、なかでも”実力行使”は最も影響の大きなものです。

    ”実力行使”をする国の機関といえば、秩序の維持にあたる「警察」です。
 「警察」は、【内閣】が行使する行政の一部です*1

  このような「警察」が、国会議事堂内でも活動することになれば、つまりは【内閣】が【国会】の秩序維持をすることになってしまいます。
 それでは、「三権分立」が到底確保できません。

 

 そこで、衆議院参議院内部の警察権は、「議長」が行うこととされていて(国会法114条)、議院内部の警察は、議会事務局に所属する「衛視」が行うこととされています(衆議院規則209条1項、参議院規則218条)。
 「警察官」は、「議長」が特に必要と認める場合に【内閣】に派出を要求しない限り、議事堂内で活動を行うことはできません(衆議院規則209条2項、参議院規則218条、219条)。
 つまり、【国会】は、その独立性を保つため、とんでもなく例外的なことでもない限り、議事堂内で「警察官」に頼ることはないのです。

 

 もし、16日の夜、私服警察官が、議事堂内で、鴻池祥肇委員長の通路を確保するために野党議員の間に強引に割り込んだのであれば、警察官が【国会】での安保法案の審議を進めるためにした”実力行使”であることは明らかです。

 また、参議院の「議長」が【内閣】に対して要求していないのに、警察官が議事堂内に入り込んでいたとしたら(実際のところ、国会議員が廊下に詰めかけて抗議していただけで「衛視」で対応できないような異常事態があったといえるのか疑問です)、【内閣】が安保法案を成立させるために参議院内で実力を行使したことになります。

 これは【内閣】による【国会】に対する不当な圧力以外のなにものでもありません。

 

 【内閣】は自分が提出した安保法案を、「国の唯一の立法機関」である【国会】にどうしても可決してもらって法律にしたいわけです。
 だからといって、【国会】から要請もないのに”実力行使”部隊の一員である「警察官」を勝手に送りこんで、法案に反対して抗議する野党議員を排除しようとしたとあれば、三権分立という憲法の大原則の重大な違反となり、けっしてあってはいけないことが起きたことになります。
 事実関係によっては、内閣総理大臣の進退が問われてもおかしくないくらいの大事件です。

 この問題については、17日に弁護士有志がいち早く抗議の声明を発表しています。
 これを受けて、有田議員は18日、次のようなツイートをしています。

 しかし、その後この問題が一体どうなったのかは、有田議員のTwitterでも、報道でも、現段階では確認することができません。中途半端なツイートで終わらせていい問題ではないように思います。

 参議院は、【国会】の威信にかけて、与野党一致して、【内閣】の憲法違反の疑いを調査、検証する必要があるのではないでしょうか。

   

(弁護士 山下信子、弁護士 古家野晶子)

*1:警察庁は、内閣総理大臣の所轄の下に置かれた国家公安委員会に置かれています(警察法4条1項、15条)。
     警視庁及び道府県警察本部は、都道府県知事の所轄の下に置かれた都道府県公安委員会の管理下に置かれています(警察法38条1項、47条2項)。