【京都の弁護士グループ】安保法制に異議あり!怒れる女子たちの法律意見書(※男子も可)

怒れる京都の女性弁護士たち(男性弁護士も可)が安保法制の問題点について意見するブログです。

近未来ミニ小説「あしたの世界」第2話 自衛隊員の休暇

 夫の名は田村守。35歳。陸上自衛隊に勤める自衛官だ。
 中学生のとき、神戸で阪神大震災被災した経験があり、そのとき見た自衛隊員の姿にあこがれて、高校卒業後、自衛隊に入った。

 

 いま、夫は休暇中。というか「休職中」。
 ある「出張」から帰ってきたまま、勤めに行けなくなった。
 鬱病と診断され、医者から仕事を休むように言われた。
 その「出張」とは、中東のある国への自衛隊派遣-。

 

 「ねえ、何があったのか話してよ。あなた帰ってきてから、急に無口になっちゃって。災害派遣で出動していたときは、いろいろ話してくれたのに・・・」

  帰ってきて早々、私は夫にそう尋ねたが、夫は口をつぐんだままだった。

 

 「・・・ごめん。派遣のことは家族にも話せないことになっているんや。」

  そう言って夫はいつもテレビばかり見ていた。感想も言わないから、見ていたのか眺めていただけなのかよく分からない。
 あのときはまさか鬱になっているとは思わず、冗談めかして怒り口調で言ってしまった。
 派遣人員交代のために与えられた帰国直後の休暇中のことだ。
 しかし、休暇があけても夫は仕事に行くことが出来ず、そのまま長い休暇となってしまった。

 

 去年、中東の過激組織がアメリカ人記者を人質にとり殺害する事件が起きた。
 まだ何人かが取り残されているというので人質奪還のために米軍の特殊部隊が出動した。
 ところが過激組織は次々と各地で人質を取り、ついには救出に来た米軍兵士まで捉えて捕虜にし、アメリカを震撼させた。
 思わぬ長期戦になり、大量の米軍部隊が中東各地に投入された。
 過激組織は「アメリカと友好関係にある国は全て敵国とみなし世界各地でテロを行う」と宣言した。
 これを受け、米軍から要請され、日本の自衛隊が中東に行き、米軍の基地への弾薬輸送や負傷兵士の治療などに当たることになった。
 それが半年前のことだ。

 

 そのとき、私は夫に尋ねた。
 「なんで日本人が人質にとられているわけでもないのに、自衛隊が行かなあかんの?」

 「日本にテロ宣言したやろ。日本の存立危機事態ということらしい。法律でそうなっているから命令があったんや。ようわからん。僕には何ともできん。まあ後方支援だし心配することないし」
 夫はそう言って笑っていたが、後で同僚の奥さんに聞くと、隊員はみな遺書を書いて密かに同僚隊員に渡していたらしい。
 夫もそんなことしていたんだろうか。

 テレビではどういうわけか余り報道していなかったけど、インターネットニュースを見ると、自衛隊の部隊も輸送中に銃撃を受けたり、自衛隊基地に自爆テロの車が突っ込んできたりしたらしい。
 たくさんの米軍の死傷兵が自衛隊基地に運ばれているとも言っていた。
 夫はどの仕事に就いていたか言ってくれないけど、きっと夫はたくさん恐ろしいものを見て、恐ろしい目に遭いすぎたのだろう。

 

 夫がいったいどんな目にあって病気になったのか、私はちゃんと知りたい。
 でも上司も、隊の偉い人も、政府も、誰も教えてくれない。
 夫は職場に復帰できるのだろうか。戻れても、またいつか、どこかの国の戦争のために派遣されてしまうのだろうか。

 

 「こんな任務のために自衛官になったわけじゃない」

 同僚の奥さんのご主人が私の夫とお酒を飲んだとき、夫はそう言っていたそうだ。
 私もそう思う。

 

 ねえ、私にも話して。
 どんな怖い話でも、辛い話でも、聞いてあげて楽になれるなら、私は聞いてあげたい。

 

(弁護士 吉田誠司) 

 

※第1話はこちら。

gekidojo-kyoto.hatenablog.com

 

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