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【京都の弁護士グループ】安保法制に異議あり!怒れる女子たちの法律意見書(※男子も可)

怒れる京都の女性弁護士たち(男性弁護士も可)が安保法制の問題点について意見するブログです。

デモに行ったら就職できないってホント?

★2015年9月までのブログ★

 デモに行ったら就活で不利になる、就職できない、なんていう噂がネット上で出ているようです。

 この噂って本当なんでしょうか?

 

三菱樹脂事件判決とその後の状況

 最高裁は、三菱樹脂事件判決で、思想・信条を理由に採用を拒否しても当然には違法ではないと判断しています(最高裁昭和48年12月12日判決)。

 ですが、この判決には、学界から「憲法で保障されている思想・良心の自由に配慮してない!」との批判が高まりました。
 また、差し戻された東京高裁では、結局三菱樹脂社が当該学生を採用するという和解をして、事件は決着しています。

 また、そもそも最高裁の判決も、「思想・信条を理由に採用を拒否しても当然には違法ではない」と述べているだけで、「全く違法ではない」と述べている訳ではありません。

 実際、東京高裁は、慶大医学部附属厚生女子学院事件判決の理由中において、思想・信条を直接の決定的な理由として採用拒否をすることは違法となる趣旨のことを述べています(東京高裁昭和50年12月22日判決)。

 また近年では、企業が就活生の思想・信条に関する情報を収集することは、原則として禁止されています(職業安定法5条の4。平成11年労働省告示第141号、平成24年厚生労働省告示第506号)。

 平成14年3月15日の閣議決定に基づいて厚生労働省が設置したHPでは、公正な採用選考を行うためには、「本来自由であるべき事項(思想・信条にかかわること)」のような、適性と能力に関係ない事項を応募用紙等に記入させたり、面接で尋ねたりして把握しないようにすることが重要、と記載しています。
 この「思想・信条にかかわること」には、人生観、生活信条、支持政党のほか、労働組合・学生運動・デモに関するものも含まれます。

公正な採用選考について|厚生労働省

  また、今回の安保関連法案反対デモに関しては、平成27年8月6日の参議院法務委員会の質疑で、上川陽子法務大臣が、デモへの参加のみを理由とする就職等の差別は、あってはならないことだと答弁しています。

有田芳生議員が「SEALDsと就職差別」について質疑。上川大臣「デモのみを理由とする就職等の差別があってはならない」

 大阪労働局のサイトは、もっと端的に、思想・信条、支持政党等に関する、してはいけない質問をあげています。

就職差別につながるおそれのある不適切な質問の例 | 大阪労働局

  

企業側から見たリスク判断

 前述の慶大医学部附属厚生女子学院事件判決からすると、企業側が、就活生が安保関連法案に関するデモに参加したことを「直接の決定的な理由」として不採用にすることは違法です。

 一方、三菱樹脂事件最高裁判決からすると、企業側が、就活生がデモに参加したことを、「適性を量る一つの間接的な要素」として、不採用としても、直ちには違法とはならないことになりそうです。

 しかし、直接的なのか、間接的なのか、その区別は相対的なものです。

 また、プライベートでデモに参加したかどうかと、従業員としての適性や資質、能力とは、通常は関係ないと考えられるでしょう。

 ですので、企業が採用面接でデモに参加したことがあるかを質問し、不採用にした場合には、「デモへの参加を不当・違法に評価され、不採用にされた。」と捉えられるリスクの方が高いのです。

 このような場合、就活生側から、デモへの参加を理由に不当な判断をされたとして訴訟を起こされる可能性もあります。

 また、訴訟までいかなくとも、就活生から、面接時にされた質問としてSNSなどを通じて拡散されると、企業側は「デモに参加したかどうか質問してくる企業」、「デモ参加を理由に不採用を決める企業」などとしてレピュテーションリスク(評判リスク)を抱えることになります。

 とすれば、企業側は、デモに参加したことを大きな要素として不採用の判断をすることだけでなく、デモに関する質問をすること自体がリスキーで、回避するべきでしょう(少なくとも私が企業の顧問弁護士ならそうアドバイスします。)。

 

就活生の立場から

 では、就活生が採用面接のときに企業からデモのことを聞かれた場合、どのように答えればよいでしょうか。

 残念ながら、この点についてはケースバイケースと言うほかありません。

 ただ、採用面接において、安保関連法案に関するデモに対してどのような関わり合い方をしたか、デモをどのように評価するかという点が尋ねられた場合、その回答が採用企業の判断において有利にも不利にも働くというのは、安保関連法案反対派も、賛成派も、ノンポリも皆同じです。

 要は採用面接という場であるということをわきまえつつ、質問の意図を推測しながら、適切に回答するしかない、ということです。

 

 また、Facebookなどにデモのことなどを投稿していて、人事担当者に見られていないかやっぱり気になるなという方は、記事の公開の範囲を限定したり、タグ付けについての設定を変更したりしてみてはどうでしょう。

 

むすび

 デモに行ったことが就活で採用企業の判断要素とされることが全くないとは言い切れません。
 ですが、多くの場合、そのことが就職上大きな影響を持つことはないはずです。
 また、採用面接で安保関連法案のことが聞かれたとしても、デモに参加したことだけで不利になるなどという短絡的な結果にはならないでしょう。

 

 ですので、その意味では「デモに行ったら就職できない」は、間違いです。

 まともな企業は、就活生の論理的思考力、行動力、社交性など、もっと本質的なことに関心を持っているはずです。

 

 ところで、このブログ、基本的な立場としては安保法制に反対する記事を投稿していますが、この記事は、安保法制反対デモの参加者の方向けだけでなく、賛成デモの参加者の方向けにもなっています。

 だって、思想・良心の自由は、憲法で国民にひとしく保障された権利ですからね。

 

(弁護士 谷口 和大、弁護士 本條 裕子)

gekidojo-kyoto.hatenablog.com